2022/09/30

臨春閣

 先日、横浜の三渓園の代表的な建築のひとつ、「臨春閣」の内部が限定期間で公開されるということで、見学に行ってきました。


三渓園は、横浜の実業家、原三溪により明治から昭和期にかけて整備され、京都や鎌倉等の歴史的に価値の高い木造建築物を園内に移築して成り立っている、腹自身の邸宅を兼ねていた大きな庭園です。


庭園と一体的に整備された建築群が見どころですが、通常非公開になっている「臨春閣」が修復を終えたタイミングでの短期間公開でした。


「臨春閣」は、もともと1600年代に建てられた紀州徳川家の別荘・蔵出御殿が大阪に移築された後、大正期に三渓園へ移築されてきたものだそうです。


池のほとりに雁行して建つ優雅な姿から「東の桂離宮」と言われ、重要文化財に指定されています。


残念ながら、今回の特別公開では内部の撮影不可でしたが、ゆっくり内部を見学した後に改めて庭園から外部を見学しました。




池の対岸越しに臨春閣を見たところ。

雁行した建物のボリュームがよくわかります。

ちょうどこの建物の対角線上にある丘の上に室町時代の三重塔が建っており、池越しの三重塔を眺めながら酒宴に興じる、、、庭園全体を活かした、ぜいたくな空間の構成になっています。


当日はあいにく大雨の日で、写真にも雨が写り込んでいますが、季節の良い晴れた日にはもっと映えるのだろうと思います。


インテリアも遊びココロのある数寄屋風書院造で、華のある酒宴のための空間、という趣きでした。

実際、移築は原三溪の長男の結婚披露宴に合わせたタイミングで竣工したようです。


庭園も含めて、これだけの規模で保存状態の良い数寄屋建築はなかなか無いと思いますが、「東の桂離宮」と言われるのも納得、、、という感じでした。




併設されている展示室には修復工事の作業を移したビデオも上映されていましたが、庭園の中にも興味を引く看板が立っていました。



文字が読みづらいですが、


「杮葺屋根葺替え」 約12万円/㎡

「檜皮葺根葺替え」 約22万円/㎡


と書いてあります。



通常の屋根工事の10倍、20倍、くらいの価格、といったところでしょうか。。。



杮葺きは板を割って製材、檜皮葺は木の皮をはいで製材、といった作業をすべて手作業でやっている工程がビデオで上映されていましたが、実際の見え掛かり以上に手間ひまかけてつくられているのがよくわかります。


木造建築は、木という朽ちる素材でつくられているので、メンテナンスをしなければ数十年で朽ち果ててしまいますが、きちんとメンテナンスをしてゆけば数百年の寿命を保つことができます。

そして、その分コストもかかる、、、ということも含めて、よく理解できる展示でした。



設計をする身としては、三渓園のように大規模かつゼイタクな邸宅を設計する機会はなかなか無いなあ、、、と思いつつ、現代の住宅建築においてもヒントになる色々なアイデアや構法を実地体験しながらブラッシュアップできた、良い機会になりました。



大雨の中を園内を歩き回って見学したおかげで、ズブ濡れの訪問となりましたが、、、足を運んでの現地実習の大切さを改めて感じた次第です。