2024/07/13

旧山邑邸

フランク・ロイド・ライトが設計した旧山邑邸に約30年ぶり(!)に訪問しました。

兵庫県芦屋市の丘の上に建つ住宅で、竣工は1924年。
今年でちょうど100年になりますが、コンクリート造の住宅として始めて重要文化財に指定されている住宅です。

旧山邑邸は、ライトが帝国ホテルの設計をしている時期に依頼された住宅ですが、ライトは基本設計のみを担当し、実施設計・現場監理は日本人スタッフの遠藤新らが担当しています。

重要文化財に指定されたのは1974年だそうで、竣工から40年と、文化財としてはかなり早い時期に指定されていますが、実際に見てみると旧帝国ホテルにも通ずる凝った意匠の工芸品のような住宅で、とても見応えのある住宅です。

今回、個人的に3回目の訪問だったのですが、冒頭に書いたように約30年ぶり、、、というだいぶブランクを置いての訪問になりました。




駅の方から歩いていくと、丘の緑の中に山邑邸が見えてきます。
緑の中に見えるベージュカラーの建物が山邑邸です。
30年前はもう少し木立ちが低くて、より目立っていたような気がします。



公道の坂道を折り返すように登ってゆくアプローチ部分。アプローチを登った先にある

玄関。



玄関廻りから建物を見たところ。大谷石の彫刻的な文様が帝国ホテルと似た意匠になっています。丘の上の勾配に合わせてひな壇状になだらかに積層しているのがわかります。




玄関ポーチから玄関を見たところ。一見するとどこが玄関かわかりませんが、、、左側の暗いくぼみ部分に扉があります。
ライトの建築では動線上に極端に小さな空間やニッチな部分があり、玄関が驚くくらい小さいこともよくある気がします。
これは、小さな空間と大きな空間を対比させて、大きな空間の開放感をより強調する、といいう手法によるようです。
扉を入った先にある玄関も小さな空間で、割と素っ気ない部屋です。そこからすぐに階段があり、階段を登った先の2階に応接室があります。



応接室。部屋の奥の窓から、芦屋市街が一望できます。狭くて小さな玄関、階段からの開放的な空間と眺望が堪能できるようになっています。
天井は折上げ天井になっていて、折上げ部分の小窓から光が効果的に入ってきます。
ソファや本棚が造り付けになっていて、天井の低いニッチ部分が心地よく感じられます。



        

部屋の反対側から見たところ。中央の大谷石の部分が暖炉になっています。
ライトの建築では家の中心に暖炉があることが多いのですが、暖房機器らしい設備が無かったので、実用上の暖房として想定されていたのかと思います。
そして、暖炉を中心にした対象形のデザインになっていますが、長方形で対象形の空間は、船舶のインテリアを思わせる造りになっています。




3階の和室。3部屋がつながっています。この部分は実施設計段階で和室になったそうですが、やはり1920年代当時の人の感覚からすると、和室のほうが落ち着いたのかもしれません。和洋折衷の意匠が面白いですが、他の部分とも違和感なくまとめられています。





床の間を見たところ。
欄間の銅板の飾り板や長押上の小窓、飾り棚の窓、等々が空間の抜けをつくっていて、採光通風に配慮されていて軽さのある空間をつくっています。





和室を出たところの廊下。縦長窓が並んでいて、リズミカルな明るい空間になっています。
左側が和室ですが、段差があちこちにあるのもこの住宅の特徴です。
ライトは高低差を上手く利用してなだらかに全体がつながる空間をつくるのが得意ですが、この住宅でもその特徴がよく現れているかと思います。




縦長窓のアップ。おそらくこの当時は大きな一枚ガラスをつくるのが難しかったため、組子状に窓を組み合わせて、かつ銅板の飾り板を入れて複雑で繊細な明かりをつくっています。
加えて、網戸も組み込まれていて、かなり凝った設えの窓になっています。
小窓を含めて窓が多くあるのは、当時は冷房が無かったので、夏を旨とすべし、の精神でつくったためかと思います。




こちらは家族部屋ゾーンの中にある、和室の寝室。こちらの和室も狭くて天井の低い、こじんまりとした空間ですが、とてもコージーで居心地の良い空間になっています。やはり、大きく作れば良い、というものではないということを教えられる気がします。




4階の食堂。
こちらは天井の高い、開放的な空間になっています。センターに暖炉もあって、少しフォーマルな雰囲気のある意匠になっています。

そして、こちらの食堂の前にはテラスがあって、外に出られるようになっています。






テラスに出て食堂側を見たところ。
大谷石のオーナメントと水平ラインを強調した庇が、とてもライトらしい意匠だなあと思います。




そして、食堂を出てテラス越しの眺め。芦屋市街、大阪湾を一望できるドラマチックな景色が堪能できます。

このテラスは開放感があって本当に気持ちよく、この住宅のクライマックスといえる場所になっています。




以上、旧山邑邸のレビューでした。

やはり、小さな玄関から2階の応接室、3階の和室、4階の食堂へと至る空間のドラマチックな展開のプランニングはさすがといえますし、窓や家具等の造作は現代ではなかなか再現できない、工芸品のような珠玉の住宅といえます。


ついついレビューに力が入ってしまいましたが、久々におとずれてみるとこんな空間あっただろうか?、、、、という部分がかなりあって、自分の記憶力の無さというか、、30年のブランクを感じてしまった訪問ではありました。




とはいえ、日本の近代建築が到達した最高峰の住宅のひとつであることには間違いなく、その点を再認識できた訪問になりました。






兵庫方面に行かれる機会がありましたら、訪問されることをオススメします。